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the Glass Shoe on Stairs デザイナーズノート(前編)〜一人用ゲームと憧憬と郷愁と慈愛〜

この記事は、コミックマーケット91(2016年12月)にて頒布した一人用カードゲーム『the Glass Shoe on Stairs』のデザイナーズノートです。
ホントはもっと早く書くつもりだったのですが、ポエム度が高いので書くのに気合が必要でした。
当然、気合が必要なのは読者の皆さんにとっても同じなので、覚悟してください。

どんなゲームかについては、以下の紹介記事を参照のこと。

vivit-jc.hatenablog.com

制作の経緯、動機

『シンデレラのおしごと』の外部作品として本作を作ろうと思ったのは、いくつか理由があります。
ひとつは、『シンデレラのおしごと』とその拡張についてTwitterエゴサーチするたびに見かけるのが「買っても遊ぶ相手がいない」「とりあえず一人回ししてみた」という内容だったことでした。
ゲームマーケットと違って、コミックマーケットや通常のオンリーイベントボードゲームを頒布するということは、そういうことです。
アイドルマスターシンデレラガールズが好きで、ボードゲームも好きで、ウチのサークルに寄ってきてくれる方というのは、とても貴重で有り難い存在です。
なので、その人たちのために何かできないかと考えて出てきたアイディアが、一人用ゲームでした。

もうひとつは、時期の問題です。
『シンデレラのおしごと』は2015年11月、拡張版『AnotherParty!』は2016年8月だったので、2016年12月に新たな拡張を出すのは早すぎると思ったのです。
ただ、ちょっとでもいいから拡張要素は欲しい……と欲張りなことを思っていたので、何かいいアイディアは無いかと模索していました。
そのような思いを魔女の大釜に入れて、じっくりコトコト煮込んでいたところ、上記の「一人用ゲーム」のアイディアと結びつき、「アイドル3人くらいの一人用ゲームを作って、その子たちのシンデレラのおしごと用拡張カードをおまけとして付けよう」という案で固まりました。

今までで一番難航したゲームデザイン

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デッキ構築型ダンジョン探索カードゲーム『DECK and SLASH』特設ページ

一人用ゲームのデザインは過去に例があり、また「ジュニアアイドル3人が大人の階段を上るゲーム、思い出カードを階段状に置ければゲームクリア」というところまですんなり決まりました。
メカニクスの中心として、カードゲーム『イノベーション』の、カードを上に重ねて置くことでシンボルが見え隠れするシステムを拝借することも同時に思いつきましたし、思い出カードのカード名のリストアップもすぐに終わりました。
それで油断をしました。
ゲームの仕様はすぐに出来上がったものの、なかなかうまいこといいバランスに収まってくれなかったのです。

一人用ゲームのデザインは特有の難しさがあります。
これが複数人でプレイするゲームなら、ゲームバランスは自然とプレイの中で生まれてきます。
テストプレイ中、明らかに強いとか、誰も使わないようなカードは、かき混ぜた水と油が自然と分離するように、はっきり目に見える形で浮かんでくるわけです。
しかし、これが一人用ゲームだと、「果たしてこのゲームがうまくいかないのは、自分が判断ミスをしたせいなのか、バランスが悪いのか、どこを直せばバランスが良くなるのか…?」という風に、問題の境界が分かりにくくなります。

また、『Deck and Slash』のデザイン時は、単に強すぎるモンスターの戦闘力を下げる(6を5にする)などの調整で対応できましたが、本作の場合はカードに描かれているシンボルが1つか2つで、少し数字を上下させるだけでそれが全体のバランスに波及的に影響するのでした。

テストを繰り返すことでゲームのバランスは整っていくはずでしたが、ここでも一人用ゲーム特有の罠があります。
何しろ客観的な基準点が無いので、調整をすればするほど、「クリアしすぎるのでは?」「今度は難しくなりすぎた気がする」「けどそんなんでもないかもしれない」などと深い闇の中に潜り込んでいきます。
また、他の人にテストプレイをお願いしても、淡々としたゲームなのでバランスが整っているか、充分楽しんでもらえているかどうか、様子が伺いにくいのも問題でした。

そんなわけで、本作は本当に最後の最後まで調整を行い、今までで一番周りの人(紙面デザインのyamketさん、および印刷業者の方)を困らせた作品となりました。
この場を借りてお詫び申し上げます。
原因は、先に書いた通り、骨格が前もって全て決まっていたせいでバランス調整もそれほど時間は必要無いだろうと油断してしまったことにあります。
テストプレイはゲーム制作の一番大事な部分なので、慢心せず余裕を持って行おうという教訓を得ました。

プレイヤーに訴えかけるゲーム

ボードゲームは純粋なゲームを楽しむためのものです。
カタン』以降の新時代のゲームはより一層その傾向があります。
本来、ゲームに付随する舞台設定やキャラクターなどは、全てゲームを支えるためにあります。
しかし、今回は一人用であることもあり、プレイヤーが遊びながら様々なことに思いを馳せられるような、エモーショナルなゲームを目指して作りました。
テーマとなる感情は憧憬と郷愁、慈愛です。

子供から見たジュニアアイドルというのは、年齢が少ししか違わなくても、とても力強く才気にあふれるお兄さん、お姉さんに見えます。
テレビなどでそんな姿を見るたびに、誰もが憧れを抱いたはずです。
しかし、大人になって振り返ると、どれだけ活躍していても、ある意味、子供は子供に過ぎないと知ります。

子供は子供に過ぎないというのは同時に、アイドルという憧れの存在であっても、自分たちと同じような少年少女時代を送っているはずだという気付きでもあります。
本作で描いているのは、「アイドルたちが日常の何気ない思い出を積み重ねて成長していく姿」ですが、アイドルではないにしろ、これはプレイヤーのかつての姿でもあるのです。
本作のステータスである「勇気」「友情」「知性」は、様々な体験や繰り返しによって積み上げるもの、それが更なるステップのために必要になるもの、そして場合によっては(他のカードが上に置かれることによって)失われてしまうものを示しています。

長い間塾講師のアルバイトをしていた経験が、このゲームを作った遠因になっているかもしれません。
最初小学生として入塾してきた生徒さんが、やがて中学校に上がり、高校受験に挑みます。
せいぜい週数回、数時間の間だけですが、日々の体験を経て少しずつ人として成長していく姿を見るのは、何とも微笑ましく、頼もしく思ったものです。
そういう面では、ジュニアアイドルのプロデューサーに似た光景を見ていたと言ってもいいかもしれません。

さて、大人になった後に改めて現在子供であるアイドルたちと接したとき、何を思うでしょう。
自分が子供だった頃を懐かしく思い出しつつ、今がんばっている彼女たちを微笑ましく見守る……。
残念ながら架空のアイドルを相手にすることはできませんが、せめてゲームでそんな疑似体験ができればと思い、このゲームを作りました。
果たしてお楽しみいただけたでしょうか?

豆知識

いわゆるシンデレラのガラスの靴は英語では「glass slipper」で、「glass shoe」という言い方は一般的ではないみたいです。
ただ、日本語の「スリッパ」のイメージとはあまりにもかけ離れているため、このタイトルにしました。
決して知らずに決めたわけじゃないです(強調)


めちゃくちゃ長くなったので後編に続きます!

追記

後編書きました
vivit-jc.hatenablog.com



『the Glass Shoe on Stairs』は各イベントで直接入手できる他、とらのあなにて通販委託等も行われているので、是非ご利用ください!
http://www.toranoana.jp/mailorder/article/04/0030/48/97/040030489779.html